「工事に欠陥があるのに補修してくれない」、「請負代金を支払ってくれない」といったような紛争が発生し、話し合いでの解決が見込めない場合は、建設工事紛争審査会の利用によって解決を図ることができます。
建設工事紛争審査会とは、建設工事の請負契約に関する当事者間の紛争の簡易・迅速・妥当な解決を図るために設置されている公的な機関です。
建設工事紛争審査会が取り扱う紛争や利用手続きについて確認しましょう。
この記事では、
- 建設工事紛争審査会とはどういう機関?
- あっせん・調停・仲裁の違い
- 審査会で取り扱える事件とは
- 紛争の事例
- 審査会の利用と申請・申請手数料
について、建設業専門の行政書士法人ストレートが解説します。
目次
建設工事紛争審査会とはどういった機関か?
建設工事紛争審査会とは、建設工事の請負契約に関する紛争の簡易・迅速・妥当な解決を図るために、国土交通省及び各都道府県に設置されている準司法機関(ADR(裁判外紛争処理)機関)のことです。
原則として当事者双方の主張や証拠に基づき、民事紛争の解決を行います。
国土交通省に設置されているものが中央建設工事紛争審査会であり、各都道府県に設置されているものが都道府県建設工事紛争審査会です。
この中央審査会と都道府県審査会には、それぞれ担当する事件の管轄区分が決められています。
審査会には、それぞれ弁護士を中心とした法律の専門家や建設工事の技術の専門家で構成され、紛争について
- あっせん
- 調停
- 仲裁
を行っています。
- 建設工事の請負契約に関する紛争は技術的事項を多く含み、様々な慣行も存在するため簡単に解決できないことが多いです。
- また、建設工事の紛争は、雨漏りなどの欠陥を補修しなければならない、工事代金を支払ってもらいたい等、早期解決の必要性が大きいという特徴があります。
- 建設工事紛争審査会は、法律・建築・土木・行政等の専門家の委員の知見を活かし、こうした紛争の解決を図ります。
あっせん・調停・仲裁の違いについて
建設工事紛争審査会は、あっせん・調停・仲裁のいずれかの手続きによって紛争の解決を図ります。
「あっせん」と「調停」は、紛争者同士の和解に向けた話し合いで、当事者同士では話し合いがうまく進まない状況の場合は、中立の立場である専門家が双方の言い分を聞く場を審査会が提供します。
「仲裁」は裁判に代わる手続きで、3人の仲裁委員が双方の主張を聞き、必要な証拠調べや立入調査などを行ったうえで妥当な判断を下す解決が図られます。
あっせん
あっせんでは弁護士があっせん委員として、原則として1人で案件を担当します。
調停
調停では、法律のほかに建築や土木等の技術の専門家、行政経験者など3人の調停委員が案件を担当します。技術的な争点がある場合、あっせんよりも調停が適していると言えます。
仲裁
仲裁は、当事者双方が紛争の解決を審査会に委ね、裁判所に訴訟を提起しないことについての合意をした場合に限られる手続きです。双方の和解を目指すあっせん・調停と違い、仲裁の場合、当事者は仲裁判断に不服があっても従わなければなりません。
仲裁判断は確定判決と同じ効力を有しているので、その内容について裁判所で争うことも不可能です。
あっせん・調停・仲裁の違い比較表
それぞれの違いは次の表のとおりです。
画像出典:国土交通省Webサイト「4.建設工事紛争審査会での紛争処理手続 ~あっせん・調停・仲裁~」をもとに表作成
なお、建設工事紛争審査会の行うあっせん・調停・仲裁の手続きは原則として非公開です。
建設工事紛争審査会で取り扱える事件とは
建設工事紛争審査会が取り扱えるのは、
- 工事請負契約の解釈又は実施をめぐる紛争
- 契約当事者間の紛争
に限られます。
具体的にどのような紛争を言うのか、説明していきましょう。
建設工事の請負契約に関する紛争とはどういうものか
建設工事の請負契約に関する紛争とは、当事者の一方又は双方が建設業者である場合の紛争のうち
- 工事の瑕疵(不具合)
- 請負代金の未払い
といったような工事請負契約の解釈又は実施をめぐる紛争のことを言います。
そのため、不動産の売買契約に関する紛争や建築物の設計監理契約に関する紛争、雇用契約に関する紛争等は、建設工事紛争審査会で取り扱えません。
対象となるのは契約当事者間の紛争のみ
建設工事紛争審査会で取り扱えるのは、
- 発注者と元請業者間
- 元請業者と一次下請業者間
- 一次下請業者と二次下請業者間
などの契約当事者間の紛争に限ります。
直接の契約関係にない元請・二次下請間、元請・近隣住民間等の紛争は対象外です。
建設工事の請負契約に関する紛争の事例
国土交通省Webサイト「3.建設工事紛争審査会で取り扱う事件 ~建設工事の請負契約に関する紛争~」にて、代表的な紛争の事例が紹介されています。
引用して紹介しましょう。
- イ.契約の解除に関する紛争 住宅の新築を注文した個人注文者が請負人に対して新築工事の請負契約の解除を求める紛争
- ロ.工事の瑕疵に関する紛争 自社ビルの修繕工事を注文した法人注文者が請負人に対して工事完成後に剥離した外壁タイルの補修を求める紛争
- ハ.工事代金の支払いに関する紛争 請負人が法人注文者に対して追加変更工事代金の支払いを求める紛争
- ニ.下請代金の支払いに関する紛争 下請負人が元請負人に対して下請代金の支払いを求める紛争
また、国土交通省Webサイトにて、中央建設工事紛争審査会での紛争解決事例が紹介されているので、気になる方は確認するといいでしょう。
建設工事紛争審査会の利用と申請手数料
中央審査会と都道府県審査会で担当している事件の管轄区分、申請の必要書類、申請手数料を説明していきましょう。
建設工事紛争審査会の管轄区分
建設工事紛争審査会の利用には、各審査会の管轄区分に従い、管轄する審査会に申請を行います。
中央審査会と都道府県審査会で担当している事件の管轄区分は次のとおりです。
中央建設工事紛争審査会 | 都道府県建設工事紛争 |
①当事者の一方又は双方が国土交通大臣の許可を受けた建設業者である場合 ②当事者の双方が建設業者で、許可をした都道府県知事が異なる場合 |
①当事者の一方のみが建設業者で、当該都道府県の知事の許可を受けたものである場合 ②当事者の双方が当該都道府県知事の許可を受けた建設業者である場合 ③当事者の双方が許可を受けた建設業者でなく、その紛争に係る建設工事の現場が当該都道府県の区域内にある場合 |
また、国土交通省Webサイト「全国の建設工事紛争審査会(事務局)一覧」にて各事務局を確認できます。
申請の必要書類
紛争処理の申請は、申請人が次の書類等を管轄する審査会の事務局に提出して行います。
必要書類の詳細 | 各書類の提出部数 |
①申請書 | 正本1部、副本4部(あっせんは2部) |
②添付書類(登記事項証明書・仲裁合意書・管轄合意書等) | 正本1部 |
③証拠書類(契約書・注文書・設計図・現場写真等) | 正本1部、副本4部(あっせんは2部) |
(出典:国土交通省Webサイト「7.紛争処理の申請方法」をもとに表作成)
郵送による申請もできますが、書類不備があった場合は申請が受理されないので、できるだけ事務局窓口へ直接提出するようにしましょう。
申請手数料
申請の手数料は次のとおりです。
(申請手数料の詳細については国土交通省Webサイト「6.紛争処理に要する費用」で確認できます。)
あっせん申請手数料
請求する事項の価額 | あっせん申請手数料の額 |
100万円まで | 10,000円 |
500万円まで | 価額(1万円単位)×20円+8,000円 |
2,500万円まで | 価額(1万円単位)×15円+10,500円 |
2,500万円を超えるとき | 価額(1万円単位)×10円+23,000円 |
調停申請手数料
請求する事項の価額 | 調停申請手数料の額 |
100万円まで | 20,000円 |
500万円まで | 価額(1万円単位)×40円+16,000円 |
1億円まで | 価額(1万円単位)×25円+23,500円 |
1億円を超えるとき | 価額(1万円単位)×15円+123,500円 |
仲裁申請手数料
請求する事項の価額 | 仲裁申請手数料の額 |
100万円まで | 50,000円 |
500万円まで | 価額(1万円単位)×100円+40,000円 |
1億円まで | 価額(1万円単位)×60円+60,000円 |
1億円を超えるとき | 価額(1万円単位)×20円+460,000円 |
通信運搬費
通信運搬費の予納額 | |
あっせん | 10,000円 |
調 停 | 30,000円 |
仲 裁 | 50,000円 |
どんな状況でも書面を取り交わすことが重要
請負代金の未払い事件の大半は当事者間のコミュニケーション不足にあります。
想定外の対応になったとき、元請も下請も「わかってくれているはず」という見込みで、互いの意思を確認していなかったり、相互に意思を確認できる書面を取り交わしていなかったりすると、工事の変更・追加や工期短縮についての責任の所在が不明確になり、トラブルの原因となります。
書面を取り交わしていないために、事実関係の主張が真っ向から対立し、なかなか和解に至らないことにもなりかねないので、どんな状況であろうと書面にしてお互いの意思を確認し合うことが重要です。
建設工事紛争審査会とは何かについてのまとめ
- 建設工事紛争審査会は建設工事の請負契約に関する紛争の解決を図るために設置されている準司法機関(ADR(裁判外紛争処理)機関)
- あっせん・調停・仲裁いずれかの手続きによって紛争の解決を図る
- 建設工事紛争審査会で取り扱える事件は「工事請負契約の解釈又は実施をめぐる紛争」かつ「契約当事者間の紛争」に限定
- 建設工事紛争審査会を利用するには各審査会の管轄区分に従い、申請書類等を事務局へ提出する
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